目次
  1. 1. はじめに:教育業界を取り巻く環境変化とM&Aの意義
  2. 2. 教育業界M&Aの特徴と背景要因
    1. 2-1. 少子化・競争激化とサービス多角化の要請
    2. 2-2. デジタル技術の進展とEdTech・オンライン教育の拡大
    3. 2-3. 人材不足・人材育成の重要性(リスキリング・リカレント教育)
    4. 2-4. 投資ファンド・大手企業による教育参入とMBO
  3. 3. 主なM&A事例(2023年〜2025年頃)
    1. 3-1. SHIFT<3697>によるインフラトップの教育事業・人材関連事業の取得
    2. 3-2. エクサウィザーズ<4259>、「とりんく」事業をコドモンに譲渡
    3. 3-3. ユナイテッド<2497>、個別指導塾「ベスト個別」を運営するベストコを子会社化
    4. 3-4. エフ・コード<9211>、生成AIコンサルのSpinFlowを子会社化
    5. 3-5. チエル<3933>によるオキジム子会社化
    6. 3-6. オールアバウト<2454>、手芸関連講師育成・教育支援事業を譲渡
    7. 3-7. サイバーセキュリティクラウド<4493>、スタートアップテクノロジーのシステム受託開発事業を取得
    8. 3-8. ラバブルマーケティンググループ<9254>によるユニオンネット子会社化
    9. 3-9. アジャイルメディア・ネットワーク<6573>、絵本など幼児用教育材のグローリーを子会社化
    10. 3-10. 富士山マガジンサービス<3138>による虔十社「翔進予備校」塾事業取得
    11. 3-11. HOUSEI<5035>、シティアネットからITインフラ事業等を取得
    12. 3-12. 富士山マガジンサービス<3138>、オンライン学習塾CEOを子会社化
    13. 3-13. システムサポート<4396>、コミュニケーション・プランニングを子会社化
    14. 3-14. ダイブ<151A>、宿屋塾を子会社化
    15. 3-15. チエル<3933>、トラストコミュニケーションを子会社化
    16. 3-16. エルアイイーエイチ<5856>、なごみ設計を子会社化
    17. 3-17. 日本リビング保証<7320>とメディアシーク<4824>、11月に経営統合
    18. 3-18. クイック<4318>による「キャリタス看護事業」の取得
    19. 3-19. ヒューリック<3003>によるリソー教育<4714>の子会社化
    20. 3-20. 明光ネットワークジャパン<4668>、児童発達支援のランウェルネスを子会社化
    21. 3-21. フーバーブレイン<3927>、SESサービスのCONVICTIONを子会社化
    22. 3-22. カヤック<3904>、英治出版を子会社化
    23. 3-23. 早稲田アカデミー<4718>、幼児教室の幼児未来教育を子会社化
    24. 3-24. FCE<9564>、学習ソフト開発の日本コスモトピアを事業取得
    25. 3-25. ブロードメディア<4347>、プログラミング教育事業のdivを子会社化
    26. 3-26. 日本創発グループ<7814>、着ぐるみ製作・ショー企画のゴーゴープロダクションを子会社化
    27. 3-27. EduLab<4427>、サクセススペースとシステムサポートアンドコンサルティングを子会社化
    28. 3-28. ヤマノHD<7571>、灯学舎を子会社化
    29. 3-29. ベネッセホールディングス<9783>、EQTと組んだMBOで非公開化
    30. 3-30. エルアイイーエイチ<5856>、学習塾TransCoolを子会社化
    31. 3-31. ユナイトアンドグロウ<4486>、クレジットカードセキュリティコンサル事業等をGRCS<9250>に譲渡
    32. 3-32. GRCS<9250>、fjコンサルティングからPCI DSS認定支援事業を取得
    33. 3-33. ガーラ<4777>、韓国の映画・CMコンテンツ制作ROAD101を子会社化
    34. 3-34. カヤック<3904>、スポーツスクールのスクールパートナーを子会社化
    35. 3-35. テンポスホールディングス<2751>、回転ずしなど運営のヤマトを子会社化
    36. 3-36. TBSHD<9401>、やる気スイッチグループHDを子会社化
    37. 3-37. HOUSEI<5035>、英語スピーキング評価サービスのアイードを子会社化
    38. 3-38. テクノホライゾン<6629>、校務システム開発のウェルダンシステムを子会社化
    39. 3-39. ブロードマインド<7343>、結婚相談所イノセントを子会社化
    40. 3-40. テクノホライゾン<6629>、幼児向けICT英語教材のCYBER DREAMを子会社化
    41. 3-41. チエル<3933>、南海MJEを子会社化
    42. 3-42. さくらさくプラス<7097>、保育のデザイン研究所を子会社化
    43. 3-43. マネックスグループ<8698>、英語教育事業Selanを子会社化
    44. 3-44. ナガセ<9733>、兵庫・大阪北摂で「木村塾」運営のヒューマレッジを子会社化
  4. 4. 過去事例を含めた教育業界M&Aの大局(2000年代後半〜2022年頃まで)
    1. 4-1. ベネッセHDによる海外事業売却やMBOなど
    2. 4-2. ヒューマンホールディングスの海外企業買収、英語教育事業展開
    3. 4-3. 学研HDによる全教研・文理などの子会社化
    4. 4-4. パソナ・リクルートなど大手人材企業の教育領域参入
    5. 4-5. ITサービス企業やDX企業の教育事業買収
    6. 4-6. 上場維持か非公開化か:MBOの事例(ワールドHD、ニチイ学館、アルクなど)
    7. 4-7. 大学・専門学校・幼児園などの領域と企業の新たな補完関係
  5. 5. M&Aから読み解く主なキーワードと論点
    1. 5-1. DXとEdTech:リスキリング需要の取り込み
    2. 5-2. 幼児向け・保育事業:無償化政策や女性就労拡大の波
    3. 5-3. 英会話や外国語需要:グローバル化とインバウンド需要の増大
    4. 5-4. 地域塾・専門スクール:大手企業によるドミナント戦略
    5. 5-5. 企業内教育・研修需要:SES・エンジニア教育の拡大
    6. 5-6. 投資ファンド・金融機関の思惑:教育領域への投資と収益性
  6. 6. M&A成功要因とリスク
    1. 6-1. 買収先とのシナジー創出:サービス統合、クロスセル
    2. 6-2. 組織文化の融合、従業員のモチベーション・離職対策
    3. 6-3. 事業ドメインの相性:BtoC型かBtoB型か
    4. 6-4. 価格競争の激化と付加価値サービスによる差別化
    5. 6-5. 学校法人・公教育領域との協業可能性と規制
  7. 7. 今後の展望:教育M&Aはどこへ向かうのか
  8. 8. まとめ

1. はじめに:教育業界を取り巻く環境変化とM&Aの意義

教育業界は近年、大きな転換点を迎えています。少子化の進行や学校現場におけるICT利活用の加速、新学習指導要領における探求学習・英語教育改革など、多方面から教育の在り方が問われています。それに加えて、コロナ禍以降はオンライン教育やリモート学習が急速に浸透し、企業・社会人を対象にしたリスキリング・リカレント教育の需要も急拡大しています。

こうした中、教育サービスやコンテンツを提供する企業同士、または異業種から教育領域に新規参入を図る企業が増え、M&Aを通じてその事業基盤を獲得・拡大する動きが活性化しています。とりわけ、IT領域を中心とした人材教育・プログラミング教育の普及、DX推進に向けた企業のリスキリング需要、幼児向け保育事業や学童保育市場などでの需要増に対応するため、参入障壁を手っ取り早く越える手段としてM&Aが選ばれるケースが目立っています。

さらに少子化が進むなかで、従来の学習塾・予備校の集客維持は容易でなく、拠点拡大を図るために大手企業が地域の中小塾を買収・子会社化する流れも顕著です。大手企業が持つ資本力やITノウハウなどを活かし、塾経営の効率化を図ると同時に地域顧客基盤を取り込むケースも増えています。また英語など語学教育や通信制高校の運営、オンラインレッスンのプラットフォームを有する企業との連携・統合が実施され、教育サービスの総合化・多角化が加速しています。


2. 教育業界M&Aの特徴と背景要因

2-1. 少子化・競争激化とサービス多角化の要請

少子化によって子どもの数は確実に減少しており、従来型の受験学習塾や予備校は競合他社との顧客獲得競争が熾烈化しています。その一方、教育サービスの高度化や個別指導・オンライン指導など、多様なサービスが求められており、市場ニーズの変化に迅速に対応できる事業体制が必要です。買収や資本提携によって、教育手法や教材、拠点網などを一挙に確保できるメリットは大きく、結果としてM&Aの件数が増えています。

2-2. デジタル技術の進展とEdTech・オンライン教育の拡大

学校現場や塾経営でもICT化やEdTechの導入が避けられない時代です。新型コロナウイルス感染拡大の影響も相まって、オンライン教育やプログラミング教育・AI教育への需要が一層拡大しています。そのため、ITやDX関連のノウハウを有する企業が教育業界に参入する動きが高まり、ソフトウェア開発会社やAI関連コンサル企業を買収して、自前で教育サービスを強化する事例が後を絶ちません。

2-3. 人材不足・人材育成の重要性(リスキリング・リカレント教育)

企業のDXやAI活用が加速する中、システムエンジニアやデータサイエンティストなど高度IT人材の育成が喫緊の課題です。こうしたリスキリングや社会人教育の需要を取り込むべく、IT人材派遣企業やコンサル会社などが教育事業を買収し、自社の教育メニューを整備するケースが見られます。また逆に、専門スクールが大手企業や投資ファンドに買収され、資金力を得てオンライン研修や企業向け講座を拡充している例もあります。

2-4. 投資ファンド・大手企業による教育参入とMBO

教育業界への投資は、一定の安定収益が見込める分野として注目されています。社会的なニーズ(英語・幼児教育・高齢者の学び直しなど)は根強く、受験需要だけでなく多様な顧客層が存在する点も魅力です。投資ファンドが教育企業を買収し、事業再編やサービス改良を行い、再度売却する動きが散見されます。また、大手企業の子会社化に伴い株式上場が維持できなくなる場合や、資本関係の再編を機にMBO(経営陣が主体となる買収)で非公開化を選ぶ例(ベネッセやアルク、ニチイ学館など)も広がっています。


3. 主なM&A事例(2023年〜2025年頃)

ここからは、実際に2023〜2025年あたりに公表された教育関連M&Aの事例を紹介しながら、その狙い・背景を解説します。企業名は略号などを用いず、なるべく事例として明示します。

3-1. SHIFT<3697>によるインフラトップの教育事業・人材関連事業の取得

  • 日付:2024年12月24日
  • 概要:SHIFTはインフラトップが展開するプログラミングスクールや転職支援サービスを買収。SHIFTは自社でソフトウェア技術者向け講座「ヒンシツ大学」を運営しており、プログラミング教育やエンジニア育成への親和性を高く評価した。
  • 狙い・背景:ソフトウェア開発品質の向上を支援するSHIFTにとって、教育事業の拡充はエンジニアネットワークの確保や企業向け研修サービスの拡大につながる。またインフラトップの事業はDMM.comの新設会社へ分割された上で取得される形をとり、取得価格は3億9000万円と比較的安価に設定された。

3-2. エクサウィザーズ<4259>、「とりんく」事業をコドモンに譲渡

  • 日付:2024年11月20日
  • 概要:エクサウィザーズはVisionWiz(幼稚園・保育園児の撮影用アプリ「とりんく」)を保育・教育施設向け情報サービスのコドモンに譲渡。
  • 狙い・背景:2023年3月期からの構造改革の一環。アプリ事業を保育領域に強いコドモンに譲渡することで、事業の継続と再編を同時に進める。譲渡価額は1億円。

3-3. ユナイテッド<2497>、個別指導塾「ベスト個別」を運営するベストコを子会社化

  • 日付:2024年11月13日
  • 概要:ユナイテッドは教育事業を広げるため、個別指導塾「ベスト個別」を東北エリア中心に111教室展開するベストコを取得(持ち株会社グローバルアシストHD株式の51%を取得)。取得価額は9億9300万円。
  • 狙い・背景:ユナイテッドは元々オンラインプログラミングスクール「テックアカデミー」を手がけていたが、プログラミング以外への領域拡大を模索していた。既存塾とのシナジーを狙う。

3-4. エフ・コード<9211>、生成AIコンサルのSpinFlowを子会社化

  • 日付:2024年11月5日
  • 概要:エフ・コードが生成AI活用コンサル会社SpinFlow(半期実績で売上2億8800万円)を株式50.1%取得。取得価額1億8100万円。
  • 狙い・背景:顧客企業のDX推進支援を一層強化し、人材教育や業務改善に生成AIを活用するサービスを拡大する狙い。

3-5. チエル<3933>によるオキジム子会社化

  • 日付:2024年10月28日発表/12月23日追記事項
  • 概要:チエルは沖縄に拠点を持つオキジム(事務機器販売、学校向けICT機器販売)を子会社化。最終的に取得割合51.6%、価額13億4300万円で12月27日に取得。
  • 狙い・背景:沖縄の強固な販売ネットワークを活用し、教育ICT製品の拡販を図る。さらに医療介護施設向けeラーニングシステムの展開も視野に。

3-6. オールアバウト<2454>、手芸関連講師育成・教育支援事業を譲渡

  • 日付:2024年10月21日
  • 概要:オールアバウトは子会社の手芸関連講師育成事業「楽習フォーラム」をエンドレスに譲渡し、子会社を解散。事業撤退に踏み切る。
  • 狙い・背景:コロナ禍以降、通所型手芸教室利用が減少し、採算が悪化。アクセサリーパーツ製造のエンドレスへ譲渡価額非公表。

3-7. サイバーセキュリティクラウド<4493>、スタートアップテクノロジーのシステム受託開発事業を取得

  • 日付:2024年8月30日
  • 概要:Webエンジニア教育事業等で知られるスタートアップテクノロジーからシステム受託開発事業をジェネレーティブテクノロジー(サイバーセキュリティクラウド新設)を通じ取得。
  • 狙い・背景:自社プロダクトの開発強化やサイバーセキュリティ関連事業における自社DXを推進するため、Web開発リソースを取り込む意図。

3-8. ラバブルマーケティンググループ<9254>によるユニオンネット子会社化

  • 日付:2024年8月5日
  • 概要:ラバブルマーケティンググループはWebサイト制作などのユニオンネットを1億2700万円で買収。ユニオンネットは学校・教育関連で多数実績を持つ。
  • 狙い・背景:SNSマーケティング事業やDX支援事業拡大のため、教育業界との取引実績が豊富なWeb制作企業を子会社化し、マーケティング支援の幅を広げる。

3-9. アジャイルメディア・ネットワーク<6573>、絵本など幼児用教育材のグローリーを子会社化

  • 日付:2024年7月29日
  • 概要:絵本・玩具や屋内外遊具などを製作するグローリーの全株式を2000万円で取得。グローリーは幼児施設200カ所以上を顧客とする。
  • 狙い・背景:主力のアンバサダーマーケティング事業に続く新たなビジネスを確立し、幼児教育市場に参入する。

3-10. 富士山マガジンサービス<3138>による虔十社「翔進予備校」塾事業取得

  • 日付:2024年7月19日
  • 概要:富士山マガジンサービス傘下企業が、理数系受験塾「翔進予備校」等を運営する虔十社の塾事業を2000万円で取得。
  • 狙い・背景:沖縄のオンライン個別指導塾CEOを先行取得しており、さらに理数系専門塾も取り込むことで教育領域を拡大し、オンライン自習室などシナジーを狙う。

3-11. HOUSEI<5035>、シティアネットからITインフラ事業等を取得

  • 日付:2024年7月12日
  • 概要:HOUSEIはシティアネットのITインフラ構築・運用受託及びIT技術者派遣の2事業を取得。シティアネットはパソコン関連教育事業も手がけるが、今回の譲渡はITインフラ関連に限定。
  • 狙い・背景:システム基盤構築から運用までをワンストップで提供し顧客のDXをサポートするため。教育支援の分野でのIT活用も視野に入る可能性がある。

3-12. 富士山マガジンサービス<3138>、オンライン学習塾CEOを子会社化

  • 日付:2024年6月21日
  • 概要:小学生〜高校生のオンライン学習塾を運営するCreate Education Online(CEO)の株式70%を7630万円で取得。
  • 狙い・背景:EdTech分野への本格進出を目指し、オンライン指導体制を拡充する。

3-13. システムサポート<4396>、コミュニケーション・プランニングを子会社化

  • 日付:2024年6月20日
  • 概要:XRソリューションや地図・位置情報ソリューション、人事領域のERP導入支援などを手がける同社を6億3000万円で買収。医療や安全教育でのバーチャルトレーニング教材などを提供している。
  • 狙い・背景:システム開発力を高めるとともにXR技術を活かした訓練ツール開発を強化し、教育・研修分野での新サービス拡充を狙う。

3-14. ダイブ<151A>、宿屋塾を子会社化

  • 日付:2024年6月14日
  • 概要:宿泊業に特化したビジネススクール「宿屋大学」運営の宿屋塾を取得。高付加価値・高単価スタッフを派遣する狙い。
  • 背景:ホテル総支配人を多数輩出するノウハウを活かし、人材派遣事業と教育事業を掛け合わせる。

3-15. チエル<3933>、トラストコミュニケーションを子会社化

  • 日付:2024年5月31日
  • 概要:沖縄県名護市に拠点を置きITインフラ構築・運用保守を行うトラストコミュニケーションの全株式を3億5000万円で取得。
  • 狙い・背景:学校向け教育ICTを全国展開するチエルが、沖縄での事業基盤を強化し自治体案件獲得を目指す。

3-16. エルアイイーエイチ<5856>、なごみ設計を子会社化

  • 日付:2024年5月30日
  • 概要:リフォーム工事のなごみ設計を2億5600万円で買収。エルアイイーエイチは模擬試験・塾教材など教育事業を抱えるが、新たな柱として建築領域へ拡大。
  • 狙い・背景:同時期に食品スーパー事業「業務スーパー」(FC)を売却し、経営資源の再編が進む。

3-17. 日本リビング保証<7320>とメディアシーク<4824>、11月に経営統合

  • 日付:2024年4月26日/8月9日追記事項
  • 概要:日本リビング保証が株式交換でメディアシークを完全子会社化し経営統合。社名を「Solvvy」へ変更。メディアシークは教育・ヘルスケア領域のオンラインサービス開発にも注力しており、システムインテグレーション機能とのシナジーを見込む。
  • 狙い・背景:保証・金融・BPO機能とAI活用システム開発を組み合わせ、幅広い顧客支援体制の整備を目指す。

3-18. クイック<4318>による「キャリタス看護事業」の取得

  • 日付:2024年4月16日
  • 概要:キャリタスが持つ看護学生向けの就職イベントや求人サイト事業を譲り受ける。取得価額は非公表。
  • 狙い・背景:看護師の採用・転職支援と新卒支援を連携させ、看護領域でのリクルーティングサービス拡大を図る。

3-19. ヒューリック<3003>によるリソー教育<4714>の子会社化

  • 日付:2024年4月8日
  • 概要:ヒューリックがTOBを実施し、第三者割当増資と合わせて株式を20.57%→51%に引き上げる。TOB買付総額は約160億円。個別指導塾「TOMAS」などを運営するリソー教育を取り込み、不動産とのシナジーを狙う。
  • 背景:リソー教育は上場維持を方針とする一方、こども向けサービスをワンストップ提供する「こどもでぱーと」との連携構想がある。

3-20. 明光ネットワークジャパン<4668>、児童発達支援のランウェルネスを子会社化

  • 日付:2024年2月29日
  • 概要:ランシステム傘下で放課後等デイサービス「ハッピーキッズスペースみんと」等を運営するランウェルネスを3億8000万円で買収。
  • 狙い・背景:学習塾「明光義塾」運営と発達支援を組み合わせ、特別支援教育ニーズへの対応を強化する。

3-21. フーバーブレイン<3927>、SESサービスのCONVICTIONを子会社化

  • 日付:2024年2月26日
  • 概要:フーバーブレインはIT人材育成を強みとするCONVICTIONの株式70%を8700万円で取得。
  • 狙い・背景:SES(システムエンジニアリングサービス)と受託開発に加え、未経験者向け教育カリキュラムの強化でエンジニア集団を構築する。

3-22. カヤック<3904>、英治出版を子会社化

  • 日付:2024年2月15日
  • 概要:ビジネス書や社会書を中心とする英治出版(売上4億4400万円)を買収。
  • 狙い・背景:エンタメコンテンツ開発力と出版社のビジネス書を掛け合わせ、社会人向けリスキリング・学習コンテンツ市場で新規事業を狙う。

3-23. 早稲田アカデミー<4718>、幼児教室の幼児未来教育を子会社化

  • 日付:2024年1月25日
  • 概要:幼児向け教室「ベンチャースクールサン・キッズ」を運営する幼児未来教育を買収し、中期経営計画で掲げる新収益基盤の創出を目指す。
  • 背景:小中高向け学習塾にとどまらず、幼児教育から顧客を育成する体制を強化。

3-24. FCE<9564>、学習ソフト開発の日本コスモトピアを事業取得

  • 日付:2024年1月4日
  • 概要:FCEは日本コスモトピアが展開する学習ソフトウェア「みんなの学習クラブ」等を1億500万円で取得。
  • 狙い・背景:教育委員会向けデジタル教材など公教育分野のICT化強化に向けてパイプ構築を狙う。

3-25. ブロードメディア<4347>、プログラミング教育事業のdivを子会社化

  • 日付:2023年12月26日
  • 概要:ブロードメディア(通信制高校「ルネサンス」を運営)がプログラミングスクール「テックキャンプ」等のdivを買収。
  • 狙い・背景:高校でのプログラミング必修化を踏まえ、通信制高校とのシナジーや新規サービス開発を見込む。

3-26. 日本創発グループ<7814>、着ぐるみ製作・ショー企画のゴーゴープロダクションを子会社化

  • 日付:2023年11月28日
  • 概要:着ぐるみ製作・ショー企画に加え、パフォーマー教育など多角サービスを展開するゴーゴープロダクションを1億1000万円で取得。
  • 狙い・背景:クリエイティブ需要への対応多角化の一環で、新サービスの創出や保育園・幼稚園などの教育現場イベントにも展開可能。

3-27. EduLab<4427>、サクセススペースとシステムサポートアンドコンサルティングを子会社化

  • 日付:2023年11月22日
  • 概要:テストセンター運営やシステムサポートを手がける2社を買収し、EduLab子会社の教育測定研究所(IRT)と組み合わせ、一貫したテストセンター事業強化。
  • 背景:試験運営から受験環境構築までを統合し、オンライン・会場型を問わず試験実施を拡張。

3-28. ヤマノHD<7571>、灯学舎を子会社化

  • 日付:2023年11月15日
  • 概要:個別指導塾「スクールIE」のFC加盟店17店舗を運営する灯学舎の全株式を取得。ヤマノHDは同ブランドのFC事業を拡大中。
  • 狙い・背景:首都圏での教室網拡充、人材採用や研修ノウハウ共有を進めて教育事業の強化を図る。

3-29. ベネッセホールディングス<9783>、EQTと組んだMBOで非公開化

  • 日付:2023年11月10日/2024年1月29日追記事項
  • 概要:創業家がスウェーデン投資ファンドEQTと提携し、TOBで全株取得を目指す。最大2079億円の買付総額。TOB成立後は上場廃止見込み。
  • 狙い・背景:国内教育市場の需要減や入試改革で通信教育・模試の需要が落ち込む中、構造改革を中長期視点で進めるため非公開化を選択。

3-30. エルアイイーエイチ<5856>、学習塾TransCoolを子会社化

  • 日付:2023年9月28日
  • 概要:北海道苫小牧市の学習塾TransCoolを9000万円で取得。映像授業やオンライン化に対応した新サービス開発を狙う。
  • 狙い・背景:教育事業拡大とITを活用した授業動画制作など、専門ノウハウを取り込む狙い。

3-31. ユナイトアンドグロウ<4486>、クレジットカードセキュリティコンサル事業等をGRCS<9250>に譲渡

  • 日付:2023年9月14日
  • 概要:中堅・中小企業向けコーポレートIT支援に経営資源を集中するため、PCI DSS準拠運用コンサルと教育研修事業を手放す。
  • 狙い・背景:大手企業向けセキュリティコンサル領域から退き、本業特化を進める。

3-32. GRCS<9250>、fjコンサルティングからPCI DSS認定支援事業を取得

  • 日付:2023年9月14日
  • 概要:ユナイトアンドグロウ傘下のfjコンサルティングのPCI DSS事業(教育研修含む)を譲受。
  • 狙い・背景:クレジットカード業界向けセキュリティコンサルを拡充し、教育研修体制も一括運営。

3-33. ガーラ<4777>、韓国の映画・CMコンテンツ制作ROAD101を子会社化

  • 日付:2023年9月11日
  • 概要:映像VFX技術やDigital Human技術に強みを持つ韓国企業を約4億2000万円で取得。メタバース事業や仮想キャンパスなど教育DXにも応用。
  • 狙い・背景:ガーラは韓国LG Uplusなどと連携しメタバースで大学教育イベントを展開しており、高度な映像技術を取り込み競争力を高める。

3-34. カヤック<3904>、スポーツスクールのスクールパートナーを子会社化

  • 日付:2023年9月1日
  • 概要:幼児・小学生や高齢者向けフィットネス・スポーツスクールを運営するスクールパートナーを買収。
  • 狙い・背景:カヤックはeスポーツスクールを運営しており、動画やカードゲームなど多様な教育サービスへ展開し新規事業を開発。

3-35. テンポスホールディングス<2751>、回転ずしなど運営のヤマトを子会社化

  • 日付:2023年7月24日
  • 概要:千葉県中心に回転ずし「やまと」などを展開するヤマトの全株式を取得。飲食店経営ノウハウを深め、コンサル業務に生かす。
  • 狙い・背景:テンポスHDは飲食店コンサルに加え、飲食従業員への教育(調理研修・接客研修)を行う。外食人材の教育を強化する狙い。

3-36. TBSHD<9401>、やる気スイッチグループHDを子会社化

  • 日付:2023年6月29日
  • 概要:個別指導塾「スクールIE」や幼児教室などを運営するやる気スイッチグループHDを78%取得(287億3200万円)。
  • 狙い・背景:コンテンツ制作力を教育分野で生かし、新たな知育・教育サービスを拡大。国内外2200以上の教室で13万人の子供が学ぶ大型グループを手中に収める。

3-37. HOUSEI<5035>、英語スピーキング評価サービスのアイードを子会社化

  • 日付:2023年4月26日
  • 概要:AI活用による英語スピーキングの発音評価を提供するアイードを全株式取得。
  • 狙い・背景:教育ICT分野で英語教育の評価技術を取り込み、英会話研修や英語試験代行などを拡充。

3-38. テクノホライゾン<6629>、校務システム開発のウェルダンシステムを子会社化

  • 日付:2023年4月25日
  • 概要:「スクールマスターZeus」を開発するウェルダンシステムを買収し、私立校務支援に強いシステム開発力を獲得。
  • 狙い・背景:電子黒板や書画カメラのELMOブランドとの連携を図り、ワンストップの学校ICT化支援を狙う。

3-39. ブロードマインド<7343>、結婚相談所イノセントを子会社化

  • 日付:2023年3月24日
  • 概要:イノセントの婚活事業とファイナンシャルプランニングを掛け合わせることで、結婚後のライフプラン・金融教育サービスを拡充。
  • 狙い・背景:保険や証券などを扱うブロードマインドが人生設計・資産計画の教育支援にも踏み込む事例。

3-40. テクノホライゾン<6629>、幼児向けICT英語教材のCYBER DREAMを子会社化

  • 日付:2023年3月10日
  • 概要:仙台市のCYBER DREAMは幼児~小学生向けICT英語学習教材を提供。非公表金額で買収。
  • 狙い・背景:幼児向け教材分野を強化し、保育園・幼稚園市場へのアプローチ拡大を狙う。

3-41. チエル<3933>、南海MJEを子会社化

  • 日付:2023年2月28日
  • 概要:四国地域のOA機器販売・保守を手がける南海MJEの株式70%を1億円で取得。学校向け教育用機器も扱う同社を通じ、地域展開を進める。
  • 狙い・背景:教育ICT分野を地域ごとに押さえ込み、シェア拡大を図る。

3-42. さくらさくプラス<7097>、保育のデザイン研究所を子会社化

  • 日付:2023年2月1日
  • 概要:保育者向け研修などを行う「保育のデザイン研究所」を買収し、全国の保育士に学びの機会を提供。
  • 狙い・背景:保育園86施設を持つさくらさくプラスが保育研修サービスを内製化し付加価値を向上させる。

3-43. マネックスグループ<8698>、英語教育事業Selanを子会社化

  • 日付:2022年11月17日
  • 概要:STEAM教育のVilingに続き、Selanを買収し英語教育事業に注力。
  • 狙い・背景:金融サービスだけでなく教育分野に多角化し、グローバル教育ニーズを取り込む戦略。

3-44. ナガセ<9733>、兵庫・大阪北摂で「木村塾」運営のヒューマレッジを子会社化

  • 日付:2022年10月31日
  • 概要:売上27億円超の中堅学習塾を買収し、小中学生部門〜高校生部門のすそ野拡大。
  • 狙い・背景:東進ハイスクールや四谷大塚を擁するナガセが、さらなるドミナント戦略と地域強化を狙う。

(※この後も事例が多数挙げられているが、近年の主要事例として上記を列挙)


4. 過去事例を含めた教育業界M&Aの大局(2000年代後半〜2022年頃まで)

上記のように2023年以降も精力的なM&Aが実施されていますが、過去10〜15年に遡っても、教育業界における買収・売却事例は多数存在します。ここでは一部をピックアップし、当時の背景と照らし合わせて解説します。

4-1. ベネッセHDによる海外事業売却やMBOなど

ベネッセは通信教育「進研ゼミ」や模試、介護事業、海外事業など多角化を進めてきましたが、2010年代後半には子会社ベルリッツをカナダ企業に譲渡したり、ついには創業家主導でEQTと組みMBOを行うに至っています。背景には国内の少子化による受験分野の縮小と、教育以外の事業構造(介護・海外)での見直しがありました。

4-2. ヒューマンホールディングスの海外企業買収、英語教育事業展開

ヒューマンHDは子会社ヒューマンアカデミーを中心に、フィリピンやカナダ、米国など海外語学学校を相次いで買収してきました(例:カナダJRCP Holdingsなど)。国内でも保育園の運営会社を取り込むなど、BtoC教育事業を強化。これら一連の海外買収は、語学留学需要や海外就労ニーズを背景としています。

4-3. 学研HDによる全教研・文理などの子会社化

学研ホールディングスは出版・塾経営・幼児教育を広く手がけるなか、九州地盤の学習塾「全教研」を子会社化して地域展開を拡充し、さらに学習参考書を手がける文理を買収して自社教材のラインナップを強化してきました。公教育との連動や海外展開も視野に、教育総合企業としての地位を固める狙いがうかがえます。

4-4. パソナ・リクルートなど大手人材企業の教育領域参入

人材ビジネス大手は企業向け研修やITエンジニア育成スクールなどの需要拡大に対応し、関連企業を相次いで子会社化しています。パソナグループがインドネシアのIT人材派遣会社を買収し海外展開を強化したり、リクルートHDがスタディサプリやオンライン学習サービスを取り込んでいるのは象徴的な例です。教育事業は安定収益が期待される一方で、ITや語学など成長余地の大きいセグメントでもあるため、積極投資が行われやすいといえます。

4-5. ITサービス企業やDX企業の教育事業買収

IT企業が教育事業者を買収するケースも多く見られます。例えばフリークアウトHDの米Playwire買収やサイバーセキュリティクラウドによる受託事業取得など、DXやセキュリティなど専門分野の知見をもつ企業が教育研修サービスを内製化する流れです。また自社プロダクトを開発する上でエンジニア育成を強化し、人材流動を社内で回せる利点があります。

4-6. 上場維持か非公開化か:MBOの事例(ワールドHD、ニチイ学館、アルクなど)

一方で、株式を非公開化して事業改革や人件費投資を進める動きもあります。経営陣が主体となるMBOや投資ファンドとの協業により短期的な利益変動を気にせず事業を抜本的に作り変える、あるいは創業家の意向で意思決定の自由度を上げるといった狙いが含まれます。教育業界では、受験需要の波動や投資コストの重さなどから株主との折り合いが難しくなるケースもあります。

4-7. 大学・専門学校・幼児園などの領域と企業の新たな補完関係

株式会社による大学・専門学校の運営は制限がありますが、大学の外部サービスとしてICT環境整備や教材提供、留学生受け入れコンサルを行う企業が増加しています。M&Aにより大学や専門学校向けのコンサル・システム会社を取り込み、学内ネットワークやeラーニング環境を一括で構築する動きが盛んです。


5. M&Aから読み解く主なキーワードと論点

5-1. DXとEdTech:リスキリング需要の取り込み

企業がDXを進めるにあたり、業務自動化やAI導入を担う人材が枯渇しています。そこでプログラミングスクールやエンジニア育成企業を買収し、社内外向け研修ビジネスを展開する事例が急増。これはクラウドサービス企業やDXコンサル企業が教育事業を獲得する好例となっています。

5-2. 幼児向け・保育事業:無償化政策や女性就労拡大の波

保育の無償化によって0〜5歳児向け教育関連市場が拡大し、教育×保育の融合ビジネスが盛んです。英語保育やプログラミング幼児園など専門性の高い小規模園やフランチャイズ園を大手企業が買収し、多店舗展開する動きが顕著となっています。

5-3. 英会話や外国語需要:グローバル化とインバウンド需要の増大

訪日外国人観光客(インバウンド)急増に伴い、サービス業での英語・中国語・韓国語対応のスタッフ育成が必須となり、語学企業や通訳派遣企業の価値が上昇しました。企業向け語学研修やオンライン英会話を行う教育事業者への投資や買収が活発化しています。

5-4. 地域塾・専門スクール:大手企業によるドミナント戦略

地元に根付いた進学塾や専門スクールを大手学習塾や教育持株会社が次々と買収し、地域ブロック単位で拠点数を増やしてドミナント支配を狙う事例が多数あります。この際、買収された塾側はIT教材や経営支援ノウハウを活かせるメリットがあり、大手は生徒数と地域ブランドを手に入れるメリットがあります。

5-5. 企業内教育・研修需要:SES・エンジニア教育の拡大

企業の在職者向け研修市場も拡大しており、システム開発やSES(エンジニア派遣)を行う企業が自前で技術者育成を可能にするために教育事業者を買収する動きが盛んです。反対に、IT教育系企業がエンジニア派遣領域に進出するM&Aも行われています。

5-6. 投資ファンド・金融機関の思惑:教育領域への投資と収益性

投資ファンドは教育分野を「安定収益が期待できる市場」と評価し、学習塾や保育・英会話などを買収後、ブランド再構築や拠点展開で付加価値を上げ、数年後に再売却する戦略を取ることがあります。人材教育は比較的景気変動の影響を受けにくいビジネスとされるため、ファンドにとって魅力的な投資先になっています。


6. M&A成功要因とリスク

6-1. 買収先とのシナジー創出:サービス統合、クロスセル

成功事例の多くでは、買収先のノウハウ(ICT技術、英語教育、地域塾など)を買収企業がすでに持つ顧客基盤やブランド力と結びつけ、新商品・新サービスを生み出しています。例えばオンラインプログラミングスクールと通信制高校を統合し、eラーニングプラットフォームを強化するなど、クロスセルを上手く使っています。

6-2. 組織文化の融合、従業員のモチベーション・離職対策

教育事業は講師やスタッフの教育方針に対する共感やモチベーションが極めて重要です。大手が買収した結果、人材が流出して本来の教育品質が落ちるリスクもあります。買収後にビジョンや理念を丁寧にすり合わせ、講師・スタッフの研修制度を再構築するなどのプロセスが不可欠です。

6-3. 事業ドメインの相性:BtoC型かBtoB型か

教育事業には、個人向けに直接サービスを提供するBtoC型(学習塾、英会話教室、幼児スクールなど)と、企業や学校法人向けにソリューションを提供するBtoB型(企業研修、校務支援システム等)があります。買収企業と被買収企業が営業モデル面でかみ合わない場合、当初期待したシナジーが得られにくい点に留意が必要です。

6-4. 価格競争の激化と付加価値サービスによる差別化

学習塾や英会話の市場では低価格サービスが増えています。一方で保育事業では自治体補助金の制約があり利益率が限定されがちです。差別化には、オリジナル教材やオンラインサポートなど付加価値を高める必要があるため、買収後にどこに投資するかが経営判断のカギになります。

6-5. 学校法人・公教育領域との協業可能性と規制

学校教育法や補助金関連の規制があるため、公立学校と連携する場合はノウハウ・ネットワークの構築が必須です。自治体案件に強みを持つ企業や、既に教育委員会と実績のある企業を買収すれば参入のハードルを下げられますが、官公庁の調達プロセスや入札制度に適合する必要があります。


7. 今後の展望:教育M&Aはどこへ向かうのか

  • オンライン・オフラインのハイブリッド展開:新型コロナ以降、オンライン授業への移行はもはや標準化しました。しかし多くの現場では、対面指導との併用(ハイブリッド)が効果的と判断されています。M&Aによって対面拠点を持つ既存塾とオンライン技術を持つIT企業が統合する事例はさらに増えていくでしょう。
  • 社会人教育・リスキリング分野の拡大:企業・官公庁をターゲットとする社員教育や再教育プログラムは、DX化が進む今後さらに拡張すると考えられます。専門性の高い人材教育企業やシステム企業とのM&Aが一段と加速する余地があります。
  • 幼児からシニアまでの学び市場:幼児保育や高齢者向け教養講座など「人生100年時代」に対応した学びの需要は多様化が進むため、総合教育事業を標榜する企業のM&Aは増えるでしょう。保育園や学童事業を買収し、英会話やプログラミングの要素を付与する例が典型です。
  • MBO・非公開化の選択も継続:上場企業の場合、教育サービス拡張には初期投資・人的投資が必要なため、短期的な株主還元プレッシャーが大きいと判断すれば、MBOを通じて非公開化を選択するケースは今後も続く可能性があります。
  • 投資ファンド・事業会社の連携:英語教育や職業訓練に注目する投資ファンドが、中小塾や専門スクールを買収し、事業会社(IT・メディアなど)へ売却する流れが一定規模で続くと考えられます。

8. まとめ

本稿では、教育業界における多彩なM&A事例を取り上げ、それを取り巻く背景や意図、業界構造の変化を考察してきました。少子化の影響から、従来の学習塾・予備校ビジネスだけでは伸びしろが限定され、幼児教育や英語教育、職業教育(リスキリング)など多様な領域へ拡大する動きが加速しています。またオンライン化やDXの波が教育界にも入り込み、システム開発企業やAI関連ベンチャーが教育企業を買収する事例も相次ぎました。

教育業界は規制や公的補助金との兼ね合いもあり、独自のノウハウが重要視されます。そのために買収価格が相対的に低めに抑えられるケースがある一方、将来的な成長性や安定性を評価して投資ファンドが高値で買収することもしばしばあります。幼児教育・プログラミングスクール・英語学習市場は今後も拡大余地があるとされ、今後もM&A件数は増え続ける可能性が高いでしょう。

一方で、M&A後の組織統合やブランド維持、人材流出防止など課題も大きく、買収企業は教育サービスという「人」主体の業態を深く理解し、丁寧にシナジーを生かす取り組みが欠かせません。コロナ禍で急拡大したオンライン教育の成熟と、ポストコロナでのハイブリッド学習の定着に伴い、企業間競争はますます激化する見通しです。
M&Aによる規模拡大やデジタル化対応のスピードは、学生や社会人への学習機会の拡充、教育サービスの高度化にも寄与し得ます。上手くいけば企業価値と社会価値を同時に高められる反面、事業再編や買収資金回収を急ぎすぎれば、現場の教育品質が低下するリスクも内包しています。今後も教育業界のM&A動向は日本社会の行方を占ううえで重要な指標となり続けるでしょう。